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禁欲寺 case2―奇跡と遭遇した男―

 この寺に来て一年ぐらいたった頃だったと思う。その事件は起こった。
 教義には煩悩を断ち切るとかそんな教えがあったが、そんなのは建前だけで、プライベートでは関係なかった。他はどうだか知らないがこの寺ではそうだった。
 その日も一日、お寺での作業を終えて、宿舎の部屋へと戻った。宿舎と言っても境内の中にあり、住職の住居とくっついているので、部屋を間借りしている、と言う感じだった。
 部屋に戻った私は、いつものように趣味に時間を費やす。
 『趣味』と言うよりは『性癖』と言ってもいいかもしれない。その趣味とは女装であり、それにフェティシズムを感じるのだ。別に男性であることに不満があるわけではない。ただただ、女装というものに性的魅惑を感じているだけなのだ。
 タンスの下から二段目の棚には趣味のための物がぎっしりと詰まっている。女性物の下着から季節ごとの衣類。さらにはコスプレ要素の強いナース服やセーラー服までも入っている。保管方法は悪いかもしれないが、他の人にわからないようにするためにはタンスの棚などに押し込めてすぐには目に付かないようにするしかない。
 私はその棚からセーラー服を取り出した。紺のシンプルなタイプでしっかりとしたつくりの物だ。下着と黒のストッキングも取り出した。
 下着は薄いピンクの落ち着いた感じの上下でお揃いのもので、ブラはフロントホックになっている。ちなみに後ろだととめづらく、なれるまでが大変だったのを覚えている。
 早速、下着を着替えてストッキングをはく。
 そして、スカートをはこうとしているときだった。
「ちょっと話があるのだが・・・」
 声とともに、部屋の入り口であるふすまが開けられる音が聞こえた。
 私は勢いよく振り向き、スカートを腰の辺りまで上げた状態で硬直した。
 そこには住職が口を半開きにして立っていた。
 二人してそのまま数秒は固まっていたのではないだろうか。
 先に口を開いたのは住職だった。
「それに着替え終わったら、そのまま私のところに来なさい」
 そう言ってふすまを閉めて、戻っていってしまった。
 とりあえず私は、半端だったスカートをはいて、上もセーラー服に着替えた。
 このまま住職の部屋に行けというのだろうか。さすがに女装をしたまま外にでたことはない。それくらいの良識はある。
 住職の部屋は同じ建物の中なので本当に外に出るわけではないのだが、部屋から出るのはさすがに恥ずかしい。この格好のまま説教されるのだろうか。それは何の羞恥プレイだろうか。
 他の人に見られないよう、仏に祈りながら住職の部屋へ向かう。
 幸い道中誰にも見られることはなかった。ただ、ここまでの道のりがかなり長く感じた。いつもの数倍は時間がかかったのではないかと思えるほどだった。実際はいつもと変わらないわけだが。
 住職の部屋に入った瞬間、私は驚愕した。
 そこには下着姿の住職が、堂々と仁王立ちしていた。
 男性者ではなく女性物の下着をつけていたのだ。
「どうしました? さぁ、お座りなさい。お茶でも飲みましょう」
 その日、私は住職と朝まで語り合った。

 まさか、住職が私と同じ趣味だとは思ってもいなかった。
 私は今でもこのお寺に身を寄せている。


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