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天使の羽 -side B-

 ユカは今日学校を休んだ。もちろんずる休みではなく病欠だ。
 といってもただの風邪で、もうほとんど治っていたので、ユカは退屈で仕方なかった。
 あまりにも退屈で意味も無く二階にある自分の部屋の窓から外を眺めていた。
 その時、空からふわふわと白い羽が落ちてきた。ユカの手へと。

 天使の羽。それは『白い羽』と『黒い羽』。
 天使の羽。それを手に入れると願い事がかなう。

 ユカの学校ではそんな噂が広まっていた。クラスメートが鳥の羽を拾って騒いでいるのをユカは見たことがあった。
 だからユカは「天使の羽だ♪ なわけないか。どうせ鳥の羽だよね」なんて思っていた。
 しかし、その考えは羽に触れた瞬間変わった。
「これって……本物……?」
 感覚的なものだったがそう思った。と言うよりその羽が本物であると言う事を理解していた、というのか以前からそのことを知っていたというような不思議な感覚にとらわれたのだ。
 そして、何かが聞こえた。

 ――クロイハネヲモツモノヲミツケテクダサイ……

 声と言うより音みたいなものがユカの頭に直接響いた。
 ユカはその音を言語として理解することが出来た。聞いたことも無いはずの音だったのにだ。
 何が起こっているのかよくわからなかった。
 それから、数十分、手にした羽を見ていたがその音が聞こえることは無かった。
 羽を自分の机の上に置きベッドに寝転がる。
「なんか、つかれた……」
 とりあえず、本物の『天使の羽』が落ちてきたということだけはわかった。




「ユカちゃん、はいこれ。今日もらったプリントだよ」
「ありがとう。トモちゃん」
 夕方、親友であるトモが学校で配られたプリントをもってお見舞いに来てくれた。
「あ、そうだ。ユカちゃん聞いてよ。今日、帰りに天使の羽見つけちゃったんだ」
「天使の羽って、今学校で噂になってるやつ?」
「そうそう。説明は出来ないんだけど、なぜか本物だってわかるの」
 私と同じだ……、もしかしてトモちゃんも? ユカはそう思った。
「ふーん。トモちゃんが見つけたのって黒いやつ?」
 自分が手に入れたのは白いほうだから、もし本当に『天使の羽』を手に入れたのなら黒いほうだろう、と考えたのだ。
「え?う、うん。そうだけど……。どうして?」
「なんとなくそう思っただけだよ」
 ユカはとりあえずそう言っておいた。
 白い羽は、黒い羽をもつ者をさがしてくれといっていた。まず、白い羽にこのことを伝えるべきだろうとユカは考えていたのだ。




 ユカは、トモが帰ったあと、何とかして白い羽に、黒い羽をもつ人を見つけたことを伝えようとしていた。
 しかし、白い羽は何の反応もしなかった。
 ユカは1時間ぐらいがんばったが何も起きなかったのであきらめることにした。




 次の日の夜、トモから電話が来た。
「ユカちゃん……。相談が……あるんだけど……。今から、いつもの公園にこれるかな……?」
「今から? うん、大丈夫だけど、どうしたの?」
「公園に着いたら話すよ……」
 そう言ってトモからの電話は切れた。
 ユカは「なんだろう? 羽のことかな?」とか思いながら公園へ向かう。




「おーい、トモちゃーん」
 ユカは、先に公園についていたトモに、手を振りながら走っていった。
「ユカちゃん…き……」
 トモは何かを言おうとしたがユカには聞こえなかった。
「で、トモちゃん、どうしたの?」
「ごめんね…。ユカちゃん…」
「え?」
 ユカの腹部に焼けるような痛みがはしった。
 トモの手に握られていたカッターナイフがユカの腹部に突き刺さっていたのだ。
「はっ。やった。ついにやった。これで……」
 そう言いながらトモは、いや、すでにトモではないなにかは、ユカの腹部に刺さったカッターナイフをぐちゃぐちゃと臓物をかきまわすように動かす。
 ユカは悲鳴すらあげられなかった。痛みと、何が起こっているのか把握しきれずに困惑していたから。ただ、トモの姿を目に映しているだけだった。
 トモの体を借りたなにかが手に力を入れると、パキっという音がし、カッターナイフの刃が折れた。それと同時にユカの体が、崩れるように地面に倒れる。
 トモの口元がにぃっと嗤い、トモの体もその場に崩れた。
「ついにこのときがきた。わたしが、世界を……」
 いつの間にかトモの背後に禍々しい気を放っている、黒い翼を持った男が立っていた。
 トモの背後にたっていた、というより、トモが倒れたその場に突然現れた。そんな感じだった。
「遅かった。いや、間に合ったというべきでしょうか。ルシフェル」
 ユカの体の方からその声は聞こえてくる。その声の主は、黒い翼の男と姿がほぼ一緒で、違うのは翼の色が白であること、そしてその気配が神々しいことだけだった。
「ミカエルか」
 黒い翼の男、ルシフェルは言った。
「あなたは、その少女二人を……」
「そうだ。いい余興に、と思ったんだが」
 ルシフェルは嗤っていた。白い翼の男、ミカエルを嘲るように。そして、自分を嘲るように。
「なんてことを……。わたしは、あなたの馬鹿な趣味に興味はありません」
 ミカエルはルシフェルのこの行動の意味を理解できなかった。
「死ぬより死ぬことを常に恐れていることのほうが残酷であろう? 彼女たちのためでもある。それに、済んだことは済んだこと、それは元には戻らない。つま り、お前がいまさら何をしようが無駄という訳だ。死の力に対する薬草は無いのだからな」
「もう、いいです。黙ってください。私が来たということはどういうことかお分かりですよね?」
 ミカエルは怒りをあらわにして言った。
 なぜ、そんなことを考えるのだろうか。と、やはりミカエルはルシフェルのことを理解することが出来なかった。
「承知している。お前が現れたときわたしの負けは絶対的なものになる」
「そうです。それがわたし達の関係であり運命。意味も無ければ理由も無いのです」
 そう言ってミカエルは天に手をかざす。
「Cras amet qui nunquam amavit.」
 ミカエルがそう呟くと、ルシフェルは眩い光とともに消えていった。

 Cras amet qui nunquam amavit.
   ―いままで愛したことがない彼が、明日には愛しますように―

「ルシフェル、わたしはあなたとともに生きてはいけない。しかしあなたなしには生きていけないのです。ルシフェル、いえ、兄さん。わたしとあなたは兄弟です。いつかともに生きていける日が来るのを祈っています」
 ルシフェルが消えた空間に向かってミカエルは呟いた。
「死の力に対する薬草はたしかに無いかもしれません。しかし死んでいなければ効く可能性もあります。兄さんは気付かなかったのかもしれませんが、人間の生きようとする力はすごいものです」
 ミカエルは力の全て使い、奇跡をおこした。


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