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禁欲寺 case1―悟りを開いた男―

   私が寺に入ったのはおおよそ二年前。そこの住職は厳しいことで有名だったが、修行の身であった私は、むしろそれで良いと思っていた。
 話に聞いていた通り厳しいところで、世俗と離れて暮らすことになっていた。といっても今の日本、完全に離れることはできない。
 現に私は携帯電話を持っていたし、住職はこの寺のホームページを作るためにパソコンも購入していた。
 しかし、生活面、特に欲求に関するものは最低限に抑制されていた。食事に関しては毎食一汁一菜を基本としており、普通の人にとっては物足らないだろう。
 私は、食に関してはそれほど不満を感じなかった。もともと食には関心や執着心など持ち合わせておらず、生活に必要な分が腹に入ればそれでいい、味も量も気にしない、そういうタイプだった。
 正直きついのは性欲のほうだった。
 当初、私は性欲に関しても人より関心の少ないほうだと思っていた。学生の頃は自慰行為を月に一度やるかやらないか程度だったし、AV、エロ本などは買ったことがなかった。と言うのも、自慰行為をすることによって副交感神経が働き、集中力の低下や無気力などになって勉強に支障を生じさせるのではないかと考えていたからだ。
 今となってはなぜそんな馬鹿なことを信じていたのだろうかと思う。自慰行為を行う際に副交感神経が働いても支障を生じさせるほど集中力が低下するはずがない。
 しかし、それでも特に欲求不満状態になったことは無かったのだから、人より性欲への執着は無かったのだろう。
 その私が、性欲への抑制がきついと感じていたのだから相当なものなのだろう。他の人がなぜ平気な顔をしているのかが理解できない。
 ついに、住職が読む経文が、私を誘っているようにしか感じられなくなってしまった。
 このままでは、超えてはいけない一線を超えてしまう。そう思った。
 仲間に相談してみたら、「気張らずに、もっと気楽にいけよ」と言っていた。これは住職にアタックしろと言っているのだろうか。もう、どうすればいいのかわからない。私はそんなところまで追い詰められていた。
 ある日、私は『男色家』というレッテルを貼られ寺を追い出されることになる。
 そう、ついに住職を押し倒してしまったのだ。布団の上に。
 ことに及ぶまえに、私は正気を取り戻したのだが、住職を怒らせるには十分だった。

 今は、ホストをやっている。店のナンバー1ではないが、毎晩違う女と寝ている。
 これでいいのだ。あのときの私はどうかしていた。


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